田中一村 奄美の陰影


NHK教育TV「日曜美術館」で田中一村をとりあげていました。
わたくしの大好きな画家でしたので、楽しみに観ました。

今回のこの特集では、奄美に渡るきっかけとなった「落選」に関するエピソードが初めて知る内容で、その点を特に興味深く見ました。
「これでえかきをやめることになっても後悔はない」というような思いで描いたものが落選、その絵は鉈でバラバラに壊して燃やしてしまったそうなのですが、破壊する直前に実は写真に撮って生涯大事に持っていたこと。また、その絵もまた黒を主体とした、色濃く険しい自然の画であったこと、など。

わたくしが一村を知ったのは、7年ほど前、とある方からのご依頼がきっかけでした。
田中一村のような画風も好きです」という一言で、どのようなものだろう、と調べ、その作風にあっ、というような思い〜あまりいい表現が思いつかないのですが〜を抱き、もっと知りたくていろいろ調べて、その生きる姿勢のようなものにまで深く共感したのが最初でした。
殊に、一村の描く亜熱帯の植物は、そのどれもが「完璧」だと感じたものです。自然の完全さ、は、不完全、を内包した完全さであると思っています。そういう微細を汲み取ってこそ、人の心の深層にしっくりと安らぎを与える画になる、とわたくしは信じています。嘘をつかず、神経質なほど実直な筆づかいは、わたくしの心に大変心地よくおさまりました。

稚拙で恥ずかしいのですが、そのご依頼に対してわたくしのアウトプットしたのがこの絵です。

2003年8月制作。テーマは「無国籍な熱帯」。
当時はまだMacromediaであった「Fireworks」というソフトを使って描いたもので、今のわたくしが見ても、よくここまで描いたなぁと思います(笑)

その後、どうしても一村の見た奄美、を自分の目で見て、現地でその作品そのものと会いたい、という思いを抑えられず、一泊という強行で奄美大島にある田中一村記念美術館に足を運んだものでした。

番組中では、さまざまな解釈を加えて説明してくださいましたが、多くの解説に物足りなさもまた、感じました。おそらく、絵描きの描く絵、などというものは、それそのものが哲学、に同義だと思いますし、哲学とはまた、生きること、その姿勢そのもの、であると思っています。心の襞の隆起ひとつひとつに意味をつけると、用意されたマニュアルのようになってきます。
触れればビリリ、と感電するような「気」、一村の作品を見たときにそんな感覚が体の中に発生すれば、それですべてだ、と言えるのではないかなぁと思っています。

現在、千葉県の千葉市美術館で、田中一村展を開催しています。9月26日まで。
その後は巡回して、鹿児島市立美術館に10月5日〜11月7日、奄美大島田中一村記念美術館に帰ってくるのが11月14日〜12月14日、とのことです。
機会があったら、ぜひ、体で感じに、足を運んでみてはいかがでしょうか。